ケータイ小説 野いちご

小倉ひとつ。

たい焼き屋「稲や」
9.あなたの連絡先

そろそろ寒さが厳しくなってきた。


一般的にはクリスマスが近づいているので街はクリスマス一色だけれど、稲やさんではクリスマスの装飾をしない。


しっとりした上品な日本家屋がお気に入りの常連さんが十二月の下旬にお誕生日を迎えるので、毎年密かに、別に何も言わないけれど、その方の誕生花を生ける。


その方だけではなくて、常連さんのお誕生日がある週は、もしお誕生日が分かっていたら、一週間、その方のお誕生花を選ぶ。


分からないときは無理に聞かない。


お誕生日を聞くということは、年齢を聞くこととほとんど等しいし、本当はお誕生日を祝われたくない方もいらっしゃるかもしれないし。


だから、何も言わずにただ生ける。


お誕生花は季節のお花だから、別段稲やさんの雰囲気を損ねない。


お花の小さな意味に気づく方は気づくし、気づかない方は気づかないし。


……私はお花に疎いので、店員になって、奥さんに今日のお花の由来を毎回聞くまでは、全然知らなかった。


でも、そう言われてみれば確かに、瀧川さんのお誕生日が近いときは、一週間可愛らしい桃色の秋海棠が揺れていたし、私の誕生日が近いときは、真っ白な小手毬が美しいアイリスと一緒に揺れていた。

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