小野紅未子(おのくみこ)は特別な存在だ。

細くさらさらとした、背中まであるまっすぐな髪。すらりと伸びた手足は華奢で、女の子らしくいかにも柔らかそうで。

顔立ちは後ろ姿から想像するより少しだけ幼い。小さな顔に大きな瞳。内側から光を放っているとしか思えない、透き通って輝く肌。いつでもふわりと世界に微笑みかけているような唇。

子供の頃の響きをそのまま持って大きくなったような声で彼女が私を呼ぶとき、私はどこか甘く、くすぐったく、誇らしいような愛おしいような気持ちに襲われる。


——由鶴(ゆづる)。ねえ、由鶴。


「由鶴…」


肩に置かれた弱々しい手に、私ははっとして振り返った。そこには蒼白い顔色の紅未子が潤んだ瞳で立っていた。考えるより先にその腕を鷲掴みにして、人目のない場所を探した。


「紅未子、大丈夫?」

「ごめん、ごめんね」

「いいから」


叱りながら、苦しそうに身体を折る紅未子の肩を抱いて、校舎の脇へ引っ張り込む。幸いまだ朝も早い時間だから、登校してくる生徒はまばらだ。

紺色のブレザーに包まれた華奢な身体に腕を回して、きれいな髪が顔にかからないよううなじでまとめて持つ。

紅未子は植え込みの前で崩れ落ちるように膝をつき。

ツツジの根本に向かって吐いた。




気を抜くとするんと手から逃げていってしまう紅未子の髪を、我ながら慣れた手つきで一本に結い上げる。ヘアゴムが見えないよう、少量の髪でくるっと巻き、バッグに常備してあるUピンで留めて完成。

古びた椅子の上で、冷たいタオルに顔を埋めてぐったりしている紅未子の顔色は、さっきよりはだいぶいい。


「ごめんね」

「しゃべるとまた気持ち悪くなるよ」

「もう平気…」

「嘘つかないの」