「やっぱ今日も可愛いよなー 宮田ちゃん」


「それ言うなら有明さんとかチョー美人じゃね?」


「てか、あそこのグループって一段と目を惹くよなー 可愛い子しかいねーじゃん」



「あー、付き合いてぇ 」


「お前じゃ無理だよ ギャハハ」








『…』



朝、自分達の教室に向かって廊下を歩いていると、ふと聞こえた男子達の下品な笑い

すごく不愉快だ


「もう、咲希ったら怖い顔しないの!せっかく美人って褒められたのに!」


朝から馬鹿な男子達の下品な会話を聞かされて、不機嫌な私を、可愛いと噂の宮田 菜々が甘い声で慰める


「だめだよー菜々。咲希はこういうの嫌いなんだから」


運動部らしい耳にかかるくらいのショートカットをさらさらと横に振りながら豊崎 朝陽が菜々を制する


「まあ男子って基本馬鹿な生き物だからね
同い年ほどそれが際立つわ」


爪のマニキュアがはげてないか確認しつつ呆れたように青井 美帆は肩をすくめた










自惚れてるわけじゃなくてこれはただ事実だけど、私達4人は学年の中でもカーストのトップに位置するグループだと思う

さっきの馬鹿な男子達は間違ったことは言ってない。



宮田 菜々は可愛い。


ツインテールなんて大抵、身の程をわきまえないブスがやる髪型だと思ってたけど、彼女は違う。


色素の薄い細い髪を毛先でゆるくカールさせたツインテールは小顔でくりくりの大きな目をもつ彼女の可愛らしい顔立ちをいっそう引き立たせている


「なに?黙り込んじゃって咲希ってば 聞いてる?」

首を傾けて私の顔の前で手をひらひらさせる仕草もなにもかも完璧

私はここまで女の子らしい女の子を見たことがない


「咲希ってたまに心だけ遠くいっちゃうときあるよねー。 ほら、今このへん飛んでそう」


すらっとしたバレー部らしい長身で、私の魂をひょいっと軽く掴む振りをする豊崎 朝陽はとても綺麗な子だ。

宙を掴む腕も長く細い。

猫みたいに気まぐれでイタズラ好きな性格が同性の心をくすぐるらしく、男子顔負けに女の子達からの告白は絶えない。


彼女の動作の一つ一つは美しい。


「しばらくほっとけば戻ってくるわよ。ほら朝陽、咲希の魂離してあげなさいよ」

相変わらず爪が気になるのか、指先に意識を向けつつ会話に参加している青井 美帆


長いまつげに艶っぽい唇、緩やかなロングをかきあげる彼女は大人の美しさを持っていた

すらりとした脚を組んで、けだるげに爪をいじる姿も色気があって男子達の目を惹く


『…不愉快 』


「あ、咲希の魂戻ってきた!

…まあ、あーいうちょろい男がいるおかげで私達かトップだってことがみんなに示せてるわけだし、許してあげよ?」


菜々が可愛らしい声でにっこり笑う。


「男子は、少なくともうちらの邪魔になるようなことはしないだろうしね 。

ただ、女子で身の程をわきまえない奴は潰しておくべきだと思うけど 。


で、次のターゲットどうするー? 前の奴学校来なくなったしー、最近面白くないんだよね 」

朝陽が机の上にこしかけて目を細めながら鼻歌交じりに言う。

あまり褒められた姿勢じゃないがスタイルの良い彼女がするとその姿が様になる



見た目が美しいから中身も美しい?



「今度はじわじわやらなきゃね。すぐ学校来なくなられても困るし 。

咲希は頭が回るから何か新しい遊び考えつくでしょ?」

やっと爪から目を離してわたしに向かって妖艶に微笑む。


悪魔がいるとしたらこんなふうに笑うんだろう



見た目がいいと性格もいいなんて、どうして人は見かけに騙されるんだろう



『 こういう遊びに関しては美帆の方が得意だと思うけど 』


単語帳をパラリとめくりながら美帆に少し皮肉を飛ばす。

美帆はまた肩を竦めて妖しく笑う。

あながち否定する気はないようだ。


「今度はどんな面白いことになるのかなぁー 」


菜々がくすくすと口元を手で押さえながら微笑む。

きっと今からターゲットをいじめるところを頭で想像して愉快になったのだろう


恐ろしい子だ


『…さあ? でもこれが楽しくなかったことなんて1度もなかったってことは事実でしょ』



誰かを踏み台にしないと人は充実感や満足を得られない。

なんて愚かな生き物なんだろう。







何が正しいか何が悪いかなんて本当のところ誰にも分かりはしない 。

ただ…、正義が必ず勝つオチに、ハッピーエンドに、本当はみんな退屈しているのでしょう?



ここにはシンデレラに魔法をかける魔女なんていないし、白雪姫は一生目を覚まさない


ここで生きていくためには、なにを犠牲にしなければならないんだろう

何が私を救うだろう



スクールカースト




私は、ちゃんと悪魔になりきれるだろうか