「「お願いします…!お願いします…!」」
硬く両手を握り合わせ、藁にもすがるような勢いでしきりにそう呟く朝陽と中川や三宅。
それを横目にしながら、表情には出さずとも、彼ら以上に内心強く祈っている自分に気づき、なんだかそんな自分が滑稽に思えた。
ぎゅっとつむった瞼をそっと開いた先に見えたのは、「1 凪原 司 」の文字だった。
「…よっしゃぁあ!!」
さっきまで必死に祈っていた連中達の大騒ぎの声が廊下に響く。
「咲希〜!! なんとか3分の2以内に入れたよーー!!」
朝陽が勢いよく抱きついてきた衝撃で我に帰る。
『…うん 本当に良かった 朝陽すごく頑張ってたから。 …私も嬉しい』
抱きついてきた朝陽の背中をよしよしとなだめながら返事をした。
「朝陽ー、あんた当分の間は咲希に頭が上がらないわねー」
からかうように美帆が私に抱きついたままの朝陽の顔を覗き込む。
「でも朝陽だけじゃなくて、私達も咲希のおかげで楽しい楽しい夏休みを送れるんだから、人のこと言えないわよ〜 」
相変わらずさらさらなツインテールを揺らしながらくすくす笑う菜々。
「本当だよなー 有明と司のおかげで、俺ら運動部は赤点を免れて、夏の大会にスタメンで出させてもらえるんだし、まじで感謝だよなぁ」
ありがとなっと言って綺麗に並んだ歯を覗かせて笑いながら、中川が私の頭をぽんぽんっと撫でた。
7月。 1学期最後の期末試験が終わり、それぞれ納得のいく結果を残せた安堵から、廊下に掲示された順位表の周りに群がるあちこちの生徒から解放感が感じられる。
そんなみんなの華やいだ雰囲気を壊したくなくて、そして中川の行動から菜々が膨れっ面をする前に、私はその場から退散した。
「え! 咲希ってばどこ行くの! このあとはみんなでお疲れ様会やろうって言ってたじゃない〜!!」
去り際の私の背中に向かって、焦ったように美帆が声をあげる。
『ちょっと職員室に用があるの。先に行ってて。後で場所をメールしてくれたら行くから。』
振り返り、今の自分の気持ちを悟らせないように薄く笑みを浮かべてそっと手を振った。
了解 の返事代わりに微笑み返してくれるみんなを確認して、再び進行方向を向いた私の顔からは、もはや笑みは消え去っていた。