ケータイ小説 野いちご

人魚姫の初恋

恋煩いの人魚








ちゃぷん、ちゃぷん、と波がぶつかり合う音が聞こえる。


海面から顔を出して、ゆらゆらと波に揺られながら、わたしは月の海を眺めていた。


「………今日もいないわ。あの人にはもう、会えないのかしら」


網に捕らわれてしまったわたしを助けてくれた王子様。


あれから、わたしは毎日毎日、彼のことを考えている。

彼の面影が、彼の笑顔が、わたしの頭から離れない。


だからわたしは、あの晩に彼と出会った時間になると、必ず海面まで上がって、彼の舟を探すのだ。

それでも、いつもいつも、彼には会えない。


今日も、東の空が明るくなってくる時間まで待っていたけれで、やっぱり彼の姿は海のどこにもなかった。


わたしはため息を吐き出して、海の中に潜った。


自然ともう一度ため息が出てしまう。

わたしの憂鬱な思いは海の泡となって、ぱちんと弾けて消えた。


ああ、この泡みたいに、わたしの気持ちも消えてくれたらいいのに。

あの人に会いたい、という抑えがたいこの気持ち―――。


そんなことを思いつつ、わたしは尾びれを左右に動かして、海の底へと戻った。


住処にしている大きな貝殻をぱかりと開き、中に潜り込む。


遠い海から集めてきたやわらかな海藻を敷き詰めたベッドに横たわり、眠るときに羽織る夜の衣を取り出した。

丈夫な海草で編んだ衣は、人魚の肉が大好物な鮫から、わたしの身を守ってくれるのだ。



< 7/ 12 >