「え? あの、すみません。ちょっと、もう一度いいですか」
最寄り駅前に最近できたという話題のカフェ。その隅の席で向かい合わせに腰をかけている私と、知代さん。目の前の知代さんは、コーヒーをかき混ぜるスプーンの動きを止めると、まっすぐ私を見た。
「だから……岩崎さんにキス、されました」
「ちょっと待ってください、何ですかその急展開。頭が全く追いつかないんですけど、え、付き合ってるんですか?」
「馬鹿言わないでください。誰があんな理解不能な人と付き合うんですか」
岩崎さんにキスをされたあの日から、三日が経った。あの後、私は岩崎さんのことを部屋から追い出すと、どうしてか泣いていた。
何故か、苦しかった。悲しいんじゃない。悲しいわけでも、嫌だったというわけでもない。この歳になったのだから、キスくらいは何度も経験しているし、若い頃なら感じていたようなショックも、喪失感もなかった。
だけど、どうしようもなく苦しくて、ただただ涙が止まらなかった。
「あの、私、何と言ってコメントしたら良いですかね」
知代さんは目を丸くしたまま、またコーヒーをかき混ぜ始める。
「え、何かアドバイスくださいよ。私、これからどうしたらいいですか」