ガルナシア国の都アルザスにある山の上に、緑豊かな牧場がある。

なだらかな斜面には何頭もの牛が放牧され、ゆらゆらとしっぽを揺らしながら、もっしゃもっしゃと草を食んでいる。

牛小屋も鳥小屋もあり、都近くにある中では一番大きな牧場だ。


モォ~とのんびり鳴く牛がたむろする柵の外側には、赤い屋根の小さな家がある。

その隣にある作業小屋から、一台の荷馬車と一緒に一人の若い娘が外に出た。

豊かなブロンドの髪に透けるような白い肌。

桃色の唇はつややかで、青い瞳はキラキラと輝いている、大変美しい娘だ。


「じゃあ、コレット。しっかり頼んだよ。お城に着いたら、ちゃんと手形を見せるんだよ」

「はい。お任せください、アリスおばさま」


コレットは少し不安顔のアリスに向けて胸をたたいて見せ、がっちりとした体格の農耕馬の手綱を持った。

荷馬車に積んであるのは、しぼりたてのミルクの入った高さ三十センチほどのカメが十個。

今からこれを城まで配達するのだ。

いつもは牧場主であるニックのお仕事だが、ミルクの入ったカメを荷馬車に積む際ギクッと腰を痛めてしまい、今はベッドの上で休んでいる。

うぐぅ……と呻いたまま微動だにせず脂汗を流すニックを発見したのは、朝ごはんですよと呼びに行ったコレットで。

これは大変!と悲鳴を上げ、それからはアリスと協力してニックをベッドまで運んだり、治療師を呼んだりと、日ごろはまったりとした空気の牧場が、ひとしきり大騒ぎになった。