千奈美は流産した。


「まさか、こんなことになるなんて」


 救急車に同乗して病院まで付き添った私たちは、千奈美のお母さんと入れ違いに病院を後にした。

 病院から駅に向かうバスに揺られる。

 千奈美はこれから処置を受けて、今日中には家に帰れるらしい。

 出血と痛みで気を失っていただけで、千奈美の命に別状はなかった。


「まあ、こればっかりはどうしようもないからねぇ」


 いつもより、啓子の間延び加減も短い気がした。


「うん……」


 千奈美がしたいと言っていた相談を結局私たちは聞けずにいた。
 流産したことでもう相談の意味がなくなるような内容だったのかもしれない。
 けど、それでもまだ相談したい悩みが生きているなら無視は出来ない。

 駅で啓子と別れて電車に揺られながら、私はインターネットで流産について調べていた。

 インターネットだから真偽のほどはわからないことも多い。
 それでも手軽なインターネットは、こういうプライベートなことを調べるには丁度よかった。

 流産――千奈美のように妊娠十二週未満で起きる流産は早期流産というらしい。
 早期流産の七十パーセント以上が染色体の異常が原因で、受精した瞬間にはもう流産することが決まっていたというぐらいどうしようもないことなんだっていう。

 啓子の中絶を思ったとき、その運命を理解した上で赤ちゃんが来ていたんなら、楽になれるんじゃないかって思った。
 でも、もし本当にそうならなんて悲しいことなんだろう。

 例えば啓子や千奈美がなにかの理由で死んじゃったら、『そういう運命だったんだよ』とか『自分で選んだ運命だったんだ』なんて言われても納得できない。
 こんなに悲しいことをポジティブに受け止めろなんて、残酷な言葉でしかない。

 よかった。
 自分の胸だけに留めておいて、得意顔で啓子に言ったりしなくて正解だった。

 自分の傲慢さを思い知る。

 流産は、妊娠した女性の十五パーセント以上が経験することらしい。
 想像を遥かに超えた数字だった。

 あまりにも悲しい出来事だから人に話せない人が多く、知られていないだけ。
 誰にも打ち明けられないで悲しんでいる人はいっぱいいる。

 芸能人とかが安定期に入ってから妊娠を発表するのも、早期流産した場合のことを考えてなのかもしれない。

 流産自体はそんなに珍しいことではないけど、三回以上続いたらちょっと検査するらしい。
 三回ってことはつまり、二回流産が続くことぐらいならまだ普通っていうことなんだ。

 不妊治療で妊娠してもアラフォーを過ぎたら出産より流産する確率の方が高いっていう話や、四十歳を過ぎたら流産の確率が二十五パーセントを超えるとかっていう話も出てきた。

 女性が三十路を過ぎると不妊の傾向が出るっていう話は知っていたけど、男の人も三十歳過ぎたら精子が衰えて妊娠しにくくなるらしい。