「……はあ? なに言ってんの~、今日はダメだよぉ。千奈美と朋絵が来てるんだからぁ」


 私と千奈美は手持ち無沙汰にハイビスカスティーを口にして、啓子の電話が終わるのを待つ。


「なによー、それぇ。そんなサプライズ、いらないよー」


 ちょっと揉めているのか、不機嫌そうな声に千奈美の肩が反応する。
 さっきの今じゃ、自分が怒られているような気持ちになるんだと思う。

 普段だったら、三人のうちの一人に電話が掛ってきたり用事が出来ても、残りの二人でおしゃべりを続けていた。
 でも今は、私も千奈美もだんまりで、話すような雰囲気じゃない。

 ハイビスカスティーはすっかり冷めてしまっていた。


「ごめんー、俊輔が玄関の前まで来てるんだって。追い返してくるから、ちょっと待ってて」


 電話を切った啓子はそう言って立ち上がり、部屋を出て行こうとする。


「啓子!」


 私は扉を開けて出て行こうとするのを、慌てて呼び止める。

 啓子は俊輔くんと中学二年のときから付き合っているらしい。
 啓子が中絶したのは、高校入学前の中学三年生のとき。
 だから、俊輔くんは中絶した赤ちゃんのパパになる。


「俊輔くんにも、上がってもらったら? もちろん、千奈美が嫌なら無理にとは言わないけど……俊輔くんの意見も参考になると思うし」


 自分で提案したけど、だんだん自信がなくなって声が小さくなっていく。
 女同士だから、千奈美は私と啓子に妊娠を打ち明けられたんだと思う。
 どんなに仲がよくても私たちが男の子だったら、千奈美は絶対に打ち明けられなかったと思う。

 同じ妊娠する性だからこその告白。

 いくら啓子の彼氏でも、やっぱり男の人には知られたくないかな。

 夏樹くんに妊娠を打ち明けられない千奈美。
 俊輔くんは啓子に妊娠を打ち明けられたときにどう思ったんだろう。
 どういう気持ちを経て中絶を選び、どういう気持ちで今も啓子と一緒にいるんだろう。
 それを聞いたら、千奈美も夏樹くんに打ち明ける勇気が出るかもしれない。

 そう思ったんだけど、やっぱり嫌かな。


「どう、かな?」


 千奈美をうかがうと、少し考えた後に頷いた。


「うん……そうだね」


 千奈美の賛同にホッとする。
 千奈美がいいなら、啓子が嫌がる理由もないと思う。


「じゃあ、わかったー。呼んでくるから、待っててねぇ」


 啓子がパタパタと足音を立てて玄関に行く。

 俊輔くんには何度も会ったことがある。
 おっとりした感じで、優しそうな人だった。
 俊輔くんならきっと親身になってくれると思う。