光子が亡くなったのは、不慮の事故だ。

欠陥車としてリコールされていた車の不調によって奪われた命。

……宿っていた、まだ瞳の開かない命まで。

命が奪われる、というのを、私はそのとき初めて体験した。

華取の家が壊滅したのは私が生まれて間もない頃で、育ててくれた両親は病で亡くなった。

早世だったとはいえ、いきなりのことでもなく天命と受け入れた。

寿命を生き切って、ごく自然に二人は亡くなった。

でも、光子のことは自然になんて感じられなかった。

こんな略奪が自然にあっていいはずがない。龍生のたった一人の人。私に気をかけてばかりだった友人が、唯一大切にしていた人。

ふざけるな。何故光子を連れて行った。何故俺を連れて行かなかった。光子の命は一人のものじゃない。龍生に出来た家族だったんだ。世界にいらないのは俺の方だろう。光子も、子供も、必要だった。なのに、どうして――――
 


過去を振り返るのはこの辺りで終わりにしよう。過去を語るのは存外難しい。

これからは、今までより明るい、楽しい話をしたい。

桃はもういない。でも、咲桜はいる。桃の命を、咲桜の幸せを、俺は終生手放す気はない。

そんな。

未来(さき)に任せるとしよう。

出来たら未来で、また逢おう。




END.