「本当に飛び降りでいいんですか?」


足を浮かせた所で後方からそんな声が聞こえてきて、あたしはビクッと身を震わせた。


思わずフェンスを後ろ手に握りしめていた。


今まで誰もいなかったのに、一体誰だろう?


あたしがくだらないイジメの事を思い出している間に、誰か来たようだ。


あたしは足を戻し、恐る恐る振り向いた。


フェンスの向こう側に人の姿があった。


背が高く、色白の男性だ。


黒いスーツに身をまとい、右手に冊子を持っている。


見たことのない人だ。


「と、とめないでください!」


あたしは咄嗟にそう言っていた。


こんなシチューエーションなんだから、自殺を止めに来たと思って当然だ。


だけど男は「いやいや」と、左右に首をふった。


「止めたいわけではありません。ただ、本当にその死に方で満足なのですか? と、聞きに来たんですよ?」


男は薄い唇をヘラリと歪めてそう言った。