車に揺られていた。
「勉強して帰ってきたの?」
運転席の母親が俺に問う。いきなり現実に引き戻され、罪悪感を感じる。
「少しはやってきたよ。早く終わったしさ」
「そう、がんばりなね」
笑いながら嘘をついた。本当はリトやロスと遊んでいたというのに。楽しい時間を思い返しながら勉強や学校のことを考えていた。テスト最終日はゴミ拾いがあるなぁとか、学級の会議があるなぁとか議事録金子とったかなぁ、とか。少しだけざわつく。田舎の道は自然の寒色と人工的な原色の標識であふれていた。それをなんとなく眺めながら、車に揺られる。
 10分もすれば自宅へ着いた。母に礼を伝えて、自宅の扉を開けた。
「ただいま」
居間から響く笑い声とテレビの音に俺の声はかき消されていた。今日は父親が代休で休みだったなぁ、そういえば。居間に触れず俺は階段を上り、自室へ向かった。 
 放り投げたいリュックの中身を開き、使い古した教科書とノートを取り出す。今日しなければいけないのは数学Bと、古典、それと。そんなこんなしているうちに机の上は教科書やノートでいっぱいになっていた。積もる教科書が絶望感を後押しした。この2、3時間勉強すれば良かった、という気持ちとリトやロスと遊んだ時間は無駄じゃないという気持ちが交差する。