「黙りなさいっ」



美崎ヶ丘高校文芸部の部室でそのような声が聞こえた。部長の文学京子(ぶんがくきょうこ)の怒り声だ。



「京子先輩、なんですかぁ。ちゃんと、小声でやってるのになんか、文句あります?」



部長の京子に反発するように言ったのは、2年生の常羽愛華(ときわあいか)だ。



「ただふっつーに、いっつもどーり、零汰先輩と守先輩になにか進展はあったかなーって聞いてただけなのに」



「フラワーちゃん。俺は決して、ホモじゃないからな」



愛華は副部長の結城零汰(ゆうきれいた)をホモだと思っている、腐女子である。零汰と零汰の親友で柔道部員の武井守(たけいまもる)をくっつけようとする。



「そーいう意味じゃありませんっ。別にいつも通り、零汰くんに進展があったか、尋ねてもいいです!でも、今日は違いますよ!!新入部員が来るかもなのですからっ」



4月のとある日。京子は新入部員が来ることを待っていた。もちろん、ふざけた話をしていた、愛華も零汰も。



「……醜いケンカしないでくださいよ。俺、真剣なんで」



突如聞こえた声の主は、2年生の七星流真(ななほしりゅうま)だった。



「スターくんはさっきから何をしてるんだ」



「書いてるんですよ。末永聖夜(すえながせいよ)先生みたいな作家になりたくて」



流真が言った、末永聖夜とはプロの作家である。文芸部員、流真も京子も零汰も愛華も。全員がファンの人気作家である。



そのときだった。



「失礼します……」



文芸部の部室のドアが開いた。開けたのは、1年生の男子。



「はじめまして。1年1組の宮垣勇斗(みやがきはやと)っていいます。今日から、文芸部でお世話になります」



新入部員の勇斗。ただ、本が好きという理由で文芸部に入部した、舞原中学ミスターコンの優勝者。



「はじめましてー!常羽愛華ですっ。勇斗くんはホモ?」



「は?」



出会い頭に意味不明な質問をする、愛華に勇斗は苦手意識を覚える。



「違いますよ!!断じてホモではありません!!」



「そっかー、残念」


残念がる愛華を横目に勇斗は零汰を見る。



「ああそいつ、七星流真。末永聖夜先生に憧れて作家目指してるって、今さっき知った。あっ、俺は結城零汰。よろしくね」



「私は文学京子。文芸部の部長をしているわ。よろしくお願いしますね、勇斗くん」



「はい。こちらこそ」



勇斗が来てから、7分くらいたった頃、再度文芸部の部室のドアが開く。



「文芸部って、ここでよろしいんですよね?」



「ええ」



京子が返答すると、1年生の新入部員らしき人が部室に入る。



「はじめまして。1年4組の末吉菜穂(すえよしなほ)です。よろしくお願いします」



末吉菜穂と名乗った少女は、文芸部員の目線を一気に背負う。なぜかというと、菜穂は文芸部には絶対にいない、学年……否、学校1の美少女だったからだ。