ケータイ小説 野いちご

まだ見ぬ春も、君のとなりで笑っていたい

3 君と過ごす秘密の時間



天音と会って話すようになってから、なんだか自分の世界を見る目が変わったような気がした。

彼とは、家や学校であったことを話すのではなく、ただその日に見たものや感じたことを話す。だから、何か彼に話せるような変わったものはないか、面白いことはないかと、いつでもアンテナを張って周囲に気をつけるようになった。

そうやって世界を見てみると、今まではただの景色だと思っていたものが、ひどく特別に見えてくる。通学路の道ばたに咲く花、毎日違う空の色と雲の形、学校に住み着いている野良猫の鳴き声、校舎から見える中庭の木々、帰り道に家々から漂ってくる晩ご飯やお風呂のにおい。今まではぼんやりと通り過ぎて見逃していたものたちが、気になって仕方がなくなった。

今日はこれを天音に話そう、あれも教えてあげよう。わたしの一日は、そんなことを考えているうちにあっという間に過ぎていった。居心地の悪い教室にいても、今までみたいに息苦しい思いに襲われることは少なくなった。

そして、放課後になると、はやる気持ちを抑えながら『喫茶あかり』に直行する。

お母さんから小言を言われても、遠子と彼方くんが二人でいるところを見てしまっても、香奈たちとの関係を息苦しく感じたとしても、放課後には天音と会えると思うだけで、不思議なくらい耐えることができた。天音に会っている間は、嫌なことなんてすっかり忘れてしまえた。


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