次の金曜日。


伊波くんの家で一緒にポトフを作っていたときのこと。


伊波くんが、私を呼ぶ。


「麻里」

「うん」


嗄れた低い声に、あ、きた、と構える。


きた。これはきた。


「麻里……」


美しい造作と瞳の熱量が私の視界いっぱいに映されて、何もかもを真っ白に塗り替えて思考を占領する。


「好きって言えよ」


唐突なキメ顔と溢れ出る色気に若干腰が砕けつつも、即答した。


「え、うん。伊波くんのこと好きだよ」


……即答したら、ぽかんとされた。


あれ?


「いや、好きくらいいつも言ってるじゃんか。別に言われなくても何回だって言うよ」

「そうでした」


何だか真剣にぽかんとしているので、私がよく好きと言う日常は、何故だかすっかり頭から抜け落ちていたと思われる。


「なんでそれ言ったの?」


不思議だ。


言えよ、なんて言われなくても、好きだよと言いまくっている。


伊波くんが好きですよ、と言ったら、私も好きだよ、と返すに決まっているのだから、好きですよと言ってくれたらいいのだ。


それで充分、私が言う可能性がもっと確実になるじゃないか。