「麻里」


ふわりと響く優しい声に振り向く前に、きゅ、と後ろから抱き締められた。


「何、伊波くん」

「好きだなあって、思ってました」


へにゃりと緩く笑う伊波くんは、細い黒縁フレームの眼鏡がよく似合う人だ。


そして、私の彼氏。


付き合って二年が経った。


今だ大きな諍いもなく、緩やかに続いているお付き合いは、伊波くんのその穏やかな性格によるところが大きい。


お互い、三十路。


私には譲れないことが結構あって、その度に伊波くんと話し合うことにしているのだけど、伊波くんは大抵了承してくれるから喧嘩にならずに済んでいる。


つり目できつい見た目の通り、私はいささか口が悪い。

もちろん状況は考えるけど、言いたいことは遠慮なく口にする。


自分ではこんな奴の彼氏なんか面倒臭いだけだと思うのに、伊波くんはいつでもにこにこしながら私のそばにいてくれている。


「伊波くん」

「はい」

「私も好きだよ」


伊波くんが、それはそれは嬉しそうに、へにゃ、とゆっくり笑った。