三月に入り、モデルハウスの建設は予定通り始まった。
施工式には呼ばれたけど、私ではなく高木主任に出席してもらった。


「デザイナーさんが宜しく伝えてくれって言ってたよ」


そう聞かされて返事のしようがなかった。
「そうですか…」と答え、後からやはり出れば良かった…と思った。

でも、会えば同窓会での失態のことを尋ねなければならない。
自分が彼に絡んで言ったことを聞いて、謝らなければいけない。

それから絵里に頼まれてる事も聞かないと。

許嫁というか、恋人ってどんな人?……って。


(それを聞くのが嫌なんだよね)


あの自信過剰な男のことだから、胸を張って教えてくれそうで。

自分の家柄に合った素敵な人だよ…と言われた日には、「そうですか」としか答えれなくなりそうで。


もう悪態も付けなくなりそうで。
意地すらも張れなくなりそうでーー。


「はぁーー……」


溜め息しか出ない。




「お・お・た・さ・ん?」


ぼぅっとしてたらアユちゃんが区切った呼び方で声をかけてくる。
最近これが多くて、少し慣れっこになってきた。


「何?アユちゃん」


頰杖着いたままで視線だけ向けた。
女性らしいメイクをして微笑む彼女は可愛いな…と思う。


「どうしたんですか?やっぱり恋煩いですか?」


「あん?誰が?」


またか…と睨むと、ニヤついた目で私を見る。