ケータイ小説 野いちご

君のまなざし

出会いは必然
謎の母親

それから30分程しただろうか、柴田が先ほどの母親と応接室から出て来るのが見えた。

2人肩を並べて何か笑顔で会話している。
フロント手前で柴田が俺の姿を確認したようだ。

柴田が彼女に声をかける。
「笹森さん、彼がこの店舗責任者の山口です」

はじめて真正面からその母親と目を合わせた。

驚いた。
嫌味なく美しい。
はっきりした二重まぶた。ライトブラウンの明るく大きな瞳。鼻は高すぎず、顎のラインはシャープでかなりの美人に分類される顔立ち。
真顔で真っ直ぐ俺を見つめた。凛々しいと表現した方がいいのか、本当に真っ直ぐ強く見つめられる。
それから突然笑顔になった。

「笹森祐也の母です。柳店からこちらに移籍になりました。お世話になります。よろしくお願いします」とにっこりしきれいにおじぎをした。

「はい、こちらこそよろしくお願いします。責任者の山口です」
こちらも笑顔で返したものの、内心かなり焦っていた。
本来ならこちらから先に挨拶するべきだろう。
しかし、声が出なかったのだ。

一目ぼれというのだろうか、目が離せない。
それほどに彼女の瞳に一瞬で囚われてしまった。

でも、今、柴田に紹介されてから彼女にあいさつされるまでしっかりと見つめられた。
あのライトブラウンの瞳に俺はどのように映ったのだろう。

息子を預けるに値するか値踏みされたのか?
俺の邪な気持ちに気が付いたのか?

すぐににっこりしてくれたってことはトレーナーとして合格ラインだったのか、そうであればいいのだけれど。

でも、彼女のことをどこかで見たことがあるような気がする。
どこで出会ったんだろう。こんな美人を忘れるなんてことはないはず。
きれいで真っ直ぐな瞳。見つめたら気持ちを全てもっていかれそうになり胸が高まる。

どきどきが顔に表れないように気を付けながら
「えーっと、これからも毎週木曜日で変更はありませんか?」「トレーニングプログラムの変更や希望はありますか?」などといくつか確認事項を挙げて話をする。

その間もなぜか柴田は笑顔のまま彼女の隣を離れようとしない。

そればかりか
「あー、笹森さん。お久しぶりですね」
と山田まで顔見知りだったのか、フロントに戻るとにこやかに彼女に話しかけてくる。

更に若手トレーナも次々と「笹森さん、お久しぶりです!」と声をかけていくではないか。
しかも、皆営業スマイルじゃなく自然体の笑顔で。
何だろう、これ。

笹森さんも笑顔で
「こんにちは。ごぶさたしてます。今度からこちらでお世話になることになりました」と返している。
どれだけここのスタッフと仲良しなんだろうか。

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