鈴木に絵里子さんとの関係を聞くことができず、あれから数日が過ぎていた。

気になるが、仕事中に店で聞く事も出来ずもやもやとしている。

帰る間際に言っていた「凌くんとはそんなんじゃないですから」って。絵里子さんがそう言うのならそうなんだろうと信じたい。



今日は木曜日。
祐也のトレーニングの送迎で絵里子さんも来るだろう。

最近の絵里子さんは祐也のトレーニング中、見学者ソファーで待っている事が多くなっていた。以前はトレーニング終了の頃に顔を出すだけだったのだ。

ソファーからフロアでトレーニングをしている祐也を見たり、本を読んだり。

そんな彼女をフロントから見るのが最近の俺の楽しみでもあった。


ガラス張りの店内から何気なくショップが並ぶフロアの通路を見ると、ちょうど祐也と絵里子さんが歩いて来るところだった。

すると、正面から来た誰かが知り合いだったのだろうか、立ち止まり何か話をしているようだ。
相手はショップの柱の陰になりこちらから見えない。

絵里子さんは軽く右手を肘の高さまで上げて、相手に『待ってて』という感じの仕草をしていた。

そうして、すぐに祐也と一緒に入店して真っ直ぐにフロントに来て俺に笑顔を見せてくれた。
「こんにちは」
祐也も絵里子さんと同じ笑顔で挨拶してくれる。
「こんにちは」

「こんにちは。祐也、今日は井出トレーナーが担当だよ」
俺も心からの笑顔で返す。

「わかりました」
じゃあと祐也は絵里子さんに軽く右手を上げてロッカーに向かった。
絵里子さんは頷いて「がんばって」と見送る。そして俺に向かい「後で迎えに来ます」と微笑んですぐに出て行ってしまった。

今日はここで待たないのかと残念な気持ちで彼女の後ろ姿を見送る。
その時、ガラス張りの向こうの通路に若い男の姿が見えた。

何となく気になって見ていると、その男は店から出た絵里子さんに二言三言話しかけ、彼女の肘辺りの腕をとり、そのまま自分の腕をからめて彼女と腕を組むようにしている。

は?
何者だ?
こちらに背を向けていて男の顔はよく見えない。
絵里子さんが少し困ったような顔をするが、男が絵里子さんの耳元に何か囁いた途端に笑顔になるのが見えた。
そしてそのまま腕を組んで2人で歩き去って行ってしまった。

誰だ。一体どんな関係だ。
腹の底にぞわぞわと何かがたまっていくような嫌な感じだ。

彼女が店に戻ってきたのは祐也がちょうどトレーニングを終えロッカーから出て来た時だった。

「ちょうどだったね」
絵里子さんは祐也に言われてにっこりすると、フロントにいた俺に笑顔で挨拶してすぐに帰ってしまった。

今週は会話なし。
思わずため息をもらすと
「元気ないですね」
と声をかけられた。

よりによって鈴木か。
「いや、そういうわけじゃないよ。疲れだ」
ちらっと見ると薄ら笑いをしているようにも見える。
何だよ、腹立つな。

「絵里子さん、待ち時間に誰かと会ってたみたいですね」
予想外の発言に思わず鈴木の顔を見る。