雨の中走り出したのは完全に間違いだった。

脱ぎっぱなしの靴下はそのままにして、濡れた足をスニーカーに突っ込んで走り出した。カバンも自転車もあの木陰に置いたままだけれど、もうこの際なんでもよかった。第一なくなって困るものなんて僕に存在しないのだし。

いきなり降り出した雨を遮るように走る。ずっと自転車を漕いでいた僕の体力はほぼ残っておらず、慌てて追いかけてきた橘は女子だというのに僕のすぐ後ろで濡れた足をローファーに突っ込んで走ってきた。

 馬鹿みたいじゃないか。

いきなりの雨。しかも突然の土砂降り。咄嗟に逃げ出した僕は橘に背を向けて走り出したというのに、追いつかれてしまった挙句、ふたりで雨の中意味も分からずに走り続けている。

ああ、なんて、僕は、僕らは馬鹿なのだろう。

 息苦しいし足は鉛のように重い。ただでさえ濡れた足は跳ねる泥水でさらに汚れてしまったし、制服は全身ずぶぬれで気持ちが悪い。視界を遮る雨とかすかな風が僕らの足を止めようとするけれど、ここで走るのをやめてしまったらさらに恰好悪すぎるだろう。



 結局、無駄に雨の中走り続けた僕らはあの林までやってきていて、どちらが何を言うでもなく、ふたりとも小屋へと急いだ。ぬかるんだ林の中は滑りそうで危なかったけれど、それよりもとにかく屋根のある場所へと行きたかったのだ。