「ねえ、私と一緒に、隼人を探しに行こうよ」



 人気のない階段下から、突如降ってきた言葉に驚いて思わず足を踏み外しそうになった。

なんとか階段の手すりを持って体制を整えたものの、一歩間違えればここから転げ落ちていたことだろう。無駄に冷や汗をかいてしまった。

 汗ばんだ手を手すりから離し、視線を上げる。いや、下ろす。だって声の主は、階段下にいるのだから。



「———ねえ、聞いてる?」


 目の前の人間が階段から転げ落ちそうになったというのに、そんな事には少しも触れず、声の主である彼女は階段下から真っ直ぐこちらを見上げている。

反射した光に目が慣れたのか、輪郭をはっきりとしながら声の主が見えた。

 長い黒髪を高い位置でまとめたポニーテール。白いカッターシャツとグレーの短いスカートから伸びる手足は細くて長く、小麦色に焼けた肌は彼女に少し不釣り合いな気もする。クリッとした目と高い鼻が印象的なその顔立ちは、世間的に言ってかなりいい方だろう。


———橘 千歳 (たちばな ちとせ)。


 僕のクラスメイト。と言っても、彼女が僕を認識していたことに今驚きを隠せないほどには、僕と彼女に接点は何もなかった。

 クラスでいちばん地味な僕と、いつも人に囲まれている彼女とでは関りなんて無いに等しいに決まっている。


 それに彼女は———今朝のホームルームで担任が「行方不明になった」と伝えた、唐沢隼人の恋人でもあるのだ。