ケータイ小説 野いちご

僕らはきっと、あの光差す場所へ

AM 09:30 爽快





 七月上旬。あと一週間で夏休みに入る微妙な季節。校舎の外に出た途端太陽の光が僕らを照らしてジリジリと焼き付いてくる。一瞬にして汗ばんだ白いカッターシャツを鬱陶しく感じながら、僕はポケットから自転車の鍵を取り出した。



「さすが春瀬! 準備いいよねえ」



さっきの熱弁が嘘だったかのように笑顔を向けた橘は、「よいしょ」と遠慮もなく僕の自転車の荷台に飛び乗った。きわどいスカートからのびる小麦色に焼けた彼女の細くて長い脚を見て、僕はため息を吐く。



「……それ、見苦しいから。これ腰に巻いて」

「うわあ、春瀬って案外紳士?」

「……いいから、早く」

「へへっ、はあい」



差し出した黒いカーディガンを橘は嬉しそうに受け取った。

 唐沢だったらこういう時どうするんだろうか、とふと思う。少なくとも、きっとあいつは僕よりもセンスのいいカーディガンを手渡すだろう。僕みたいな学校指定通りの黒なんかじゃなく、橘や唐沢は茶色やグレーをよく着ていた気がする。



「ったく、なんでこっちがわざわざ教室に戻らなきゃいけないんだよ」

「だって私が行ったら先生に見つかるでしょー。春瀬はいちばん後ろだし、ちょうどいいじゃん」



まあそれはそうだけれど———。


 あの後、僕はひとりで教室へと戻り自分の荷物を持って帰ってきた。授業が始まるまで残り1分を切っていたにも関わらず、荷物をまとめる僕に声をかけるクラスメイトは誰ひとりとしていなかった。確かに好都合ではあるけれど、それを予想していた橘が少し腹立たしい。



「だいたい、橘は何も持ってないだろ。いいのかよ」

「ケータイは持ってるもん、大丈夫だよ」

「あー、そう」



 僕のカーディガンを腰に巻いた橘が再び自転車へと飛び乗る。「チャリキーがないから後ろ乗せて」と悪びれもなく言った橘に、「やっぱり教室に戻ればよかったのに」と小言を言ってみる。けれど橘は、すでに一時間目は始まってしまっていると言って僕の提案をあっさりと断った。なんて遠慮のない奴なんだろう。

 どこにでも売っている白い自転車。前カゴにスクバを放り投げてまたがる。少し汗ばんだ手でハンドルを握り、ペダルを前へと押し出した。



「……重っ」



< 11/ 119 >