「かなり遅くなっちゃいましたね」
拓巳の声に顔をあげると、電車の窓、漆黒の鏡のようなそれに、並んで立って吊革につかまるわたしたちが映ってた。

窓越し、わたしを見つめていた拓巳の視線とぴたって鉢合わせして、急いではずす。

「う……うん、でもいい写真撮れてよかったじゃない?」
もしかして、ずっとわたしのこと見てたわけ?
へ、へんな顔してなかったかな……。

「今日はすみませんでした。奈央さんが指摘してくれなかったら、オレ、クライアント無視して、突っ走るところでした」
マジやばかったってぼやく拓巳に、わたしは慌てて「ううん」って首を振った。

「わたしの方こそ、ありがと」

「え?」

「なんかね、ちょっと反省したの。高林さんや宮本さんクラスの大御所と一緒の現場だと、どうも委縮しちゃって、イエスマンになっちゃう部分が多くて。でも、企画を作ったのはわたしたちだもんね。言いたいことは、ちゃんと言わなくちゃいけないのよね。だから、今日の拓巳見てて、反省した。ありがとう」

あ、そうそう、それから。
「高林さん、拓巳のこと褒めてたよ。いい新人入ったって」

わたしが付け加えると、パッと拓巳の顔がほころんだ。
「マジですか? すっげうれしい」


その無垢な笑顔に。
一瞬、胸がきゅんと甘くきしむ。


な、何? これ……
なんで、わたしドキドキしてるの?