「ねえねえ奈央さん、今度の週末、どっか行きません? オレ、日本に帰ってきてからどっこも見てなくて、スカイツリーにもまだ行ってないんですよ」

必死に原稿を書いてるこのわたしに向かって、休みの計画とは、いい度胸してるじゃないの、拓巳くん。

恨めしい視線を右隣にむけると、拓巳は優雅に長い足を組んで、東京ウォーカーなんか広げてる。

うちでは、よっぽど長文のインタビュー記事か、専門誌の仕事じゃない限り、ライティングを外注することはない。
わたしたち編集チームが、コピーを考え、本文を書く。
企画から制作まで、全部任せてもらえるのはとてもやりがいがあるし、楽しいけれど、もちろんいつでも楽々仕上がる、なんてことはないわけで。

特に原稿書きは、雑誌ごとのテイストや読者層に合わせて文体を変えなくちゃいけないから、かなり神経を使う。
今は、そう、まさにその「生みの苦しみ」にうめいてるところ。

「あのね、わたしのこの必死さが目に入らないの?」

「だから、手伝いますってば」

「いいわよ別に! それより自分の方は大丈夫なの? 新田自動車のタイアップ、企画案仕上げなきゃいけないでしょ。週明け早々、提出なのよ?」

「あ、終わりましたよ。さっき」

「え……ええっもう!?」

「モデルありとなし、2案あれば十分でしょう?」
整然とレイアウトされたラフを目の前に差し出されて、わたしはぐって言葉に詰まった。