コツコツコツ……

わたし、こと沢木奈央のヒールの音が、夜道に頼りなく吸い込まれていく。

線路わき、マンションの建設現場が続く一本道。
ポツリポツリと街灯の明かりが照らすだけのそこは、人の気配が全然なくて、正直、気味悪い。

やっぱり近道すべきじゃなかったかも。
だいたい企画書なんて明日にまわせばよかったよ……今更言っても遅いけど。

わたしはカバンを抱えなおして、足を速めた。

リリリリリリリ……

突然間近で巨大な音が響いて、「ひぇっ」って思わず飛び上がっちゃった。
着信音だって気づいて、ちょっとホッ。

仕事の件かな? 
企画書、慌てて出してきたからどっかミスったんじゃ?
ワタワタってカバンからスマホを取り出した。
すると。

うわ、非通知……? 

そう表示された画面をわたしはじぃいっと見つめた。
夜道で非通知、なんとも最悪なコラボレーション。
それって絶対取りたくないよね? ……取りたくないけど。

もしも……仕事関係の電話だったらどうする? 来週の撮影の件かも。
何か変更があったのかもしれないし……。
制作スタッフをまとめるのは、編集であるわたしの役目だ。不備があればフォローしなくちゃ。
なんて、自分のイイ子ちゃんぶりにちょっとあきれながら。
わたしは「よしっ」て画面をタップした。