―― リーン……チリーン…………


 軒下の風鈴が揺れ、透き通った細い鈴音を奏でる。


 あのとき門川君と交わしたキスを思い出しながら、あたしは、絞り模様の短冊が風に踊る様子を見上げていた。


 ……宝物庫の検分が始まったのは、あれからほんの数日後。


 ちょうど現世に戻っていたあたしは、儀式に赴く彼を見送ることも、最後の挨拶をすることも結局できなかった。


 あぁ、門川君。

 あたし、こんなにあなたに会いたいよ……。


「んなぁーにが、『最後の挨拶』じゃ。この、たわけ者めが」


 しんみりと風鈴を見上げているあたしに、絹糸が完全に小馬鹿にした声をかける。


「今生の別れでもあるまいに。さも気持ち良さそうに、『せんちめんたる』に浸るでないわい』


「絹糸って冷たい……」


「ふん。色ボケした半端者は、現世に戻って学問でもしておれ。そろそろ試験があるのじゃろうが」


「絹糸ってシビア……」


「良い機会じゃ。このさいお前の苦手な算術にでも、しっかり取り組めばよい」


「算術じゃなくて数学。……まぁ、そだね。また赤点の答案を門川君に見られたら、笑われちゃうね」


「あれは笑っていたのではない。心の底から冷笑しておったんじゃ」


「門川君って最低……」


「あれだけ永久に算術を教えてもらっておきながら、赤点を取れるお前の頭が最低じゃ」


「だ、だって苦手なんだもん! 数学の文章問題って、なんでわざわざあんな捻くれた問い方するの!?」


 なんべん問題文を読んだって、

『それでアナタは結局アタシに、いったいなに求めてるのどうして欲しいの意味わかんない呪文にしか思えないぃー!』

 ……ってなっちゃうんだもん。


 答えを求めなさい求めなさいって、あの偉そうな態度自体がすでに、人に問題解決を求める姿勢じゃないでしょ?


 答えが欲しいなら、もっと謙虚さと素直さを学んでから、この胸に飛び込んでこんかい! って思わない?