「近親婚……にございます」


 一瞬、門川君の両目が少しだけ見開かれた。


 大広間全体の空気もピーンと張りつめて、あちこちで当主たちが息をのむ音が聞こえ始める。


 小石ひとつ分の波紋のようだった小さな動揺が、押し寄せるさざ波のように大きく広がった。


 まるで彼らの胸中の大きな動揺が、空気を通してどこまでも伝染していくようだ。


 あたしもノドをゴクリと慣らし、地味男がいま言った言葉を、心の中で繰り返す。


 ……近親婚。


 ……そうか。そうだったのか……。


 キンシンコン…………


「……って、なにそれ? どーゆー意味?」

「…………」


 ポロッと素直に感想を漏らしたら、門川君と、地味男と、当主たち全員の視線が一気にドカッと集まって、ビビッった。


 な、なによ? なにみんなして、そんな呆れた顔してコッチ見てんの?


「小娘、まったくお前は……」


 服の胸元からズポッと頭を出した絹糸が、あたしを見上げながらつくづくと声を漏らす。


「ほんに、どこまでもブレぬ奴じゃのう。感に堪えぬわい」


「だってそんな日本語、あたし聞いたことないもん。『キンシンコン』ってなによ?」


「近親者同志での結婚関係のことじゃ。親子間、兄弟間、叔姪間などの、近しい血縁同士が結ばれることを、そう呼ぶのじゃよ」


「あ……」


 あたしの脳裏に、お岩さんとセバスチャンさんの顔がパッと浮かんだ。


 ふたりの間の複雑な関係を思い、胸の奥が焼けるように痛むのと同時に、大きな驚きも走る。