翌朝……


 成重は、ひどく緊張しながら目が覚めた。


 正確に言えば昨夜はほとんど眠っていないので、目が覚めたというよりも、一晩中起きていたと言った方が正しい。


 なにしろ今日は自分にとって、人生最大の勝負の日。


 水晶に結婚を申し込むのだから。


 水晶に嫌われていない自信はあるから、彼女自身から断られる可能性は低いと思っている。


 ……そうであってほしいと切実に思う。


 だがなにしろ水晶は、上位一族の第二子だ。


 同じ上位一族の子息とはいえ、十四番目の自分とでは、普通に考えて立場が釣り合わない。


 ここはひとつ父上か兄上に相談して、援護してもらうべきだろう。


 蛟にとっても小浮気との縁組は喜ばしいことなのだから、きっと納得してくれる。


 恩のある父上や兄上から縁談を持ちかけられたら、小浮気の長様は、まず断れないはずだ。


 正直、卑怯な手段のような気がするが、そんな綺麗事は言っていられない。


 さっそく話を持ちかけようと父上たちの姿を探したが、屋敷のどこにも見当たらなかった。


『あの、父上と兄上の姿が見えませんが、どちらに?』


『おふたりなら、昨夜から宝物庫に詰めていらっしゃるぞ?』


 すぐ上の兄が言った言葉に、成重は眉をひそめた。


 その言葉の意味するところはつまり、これから『宝物の儀式』が行われる……ということだからだ。


 宝物の儀式とは、小浮気の者をひとり犠牲にする形で、宝物を創り出すこと。


 宝物庫の中で密かに行われるその儀式を監督するのが、蛟一族の長の役目だった。


『尊い犠牲』を払う行為と引き換えに、小浮気は上位一族の地位を保っていられる。


 そのことを成重はずっと苦々しく思っていた。