善は急げとばかりに、あたしたちは庵を後にして太鼓橋へと向かった。


 小走りに進む小道の先に、グンと反り返った朱塗りの橋が見えてきて、あたしの緊張もグンと高まる。


 おお、脳から順調にアドレナリンが放出されてるぞ。いよいよ未知の世界への突入だ!


 鼻息も荒く眺める橋の欄干には、彫刻鳥が数羽とまっていて、羽を休めながら下の様子をじっと窺っている。


「この彫刻鳥って、いつも必ず何羽かここにいるよね」


「監視役じゃよ。異界に異変があれば、こやつらがすぐに気づいて伝達がくるようになっておる」


「でもさ、異界への入り口なんて物騒なもん、なんで閉じちゃわなかったの?」


「その昔に一度、閉じたことはあったんじゃ。その結果、余計に悪化してしまってのぅ」


「悪化? なにが?」


「活火山の噴火口を無理に密閉して放置しておけば、どうなると思う?」


「……あー、なんとなく分かった」


「以来、閉じることはなくなったんじゃ。ガス抜きは必要ということじゃよ。実害はなかったのでな」


 活火山かぁ。言われてみればあたしたち、これから火山の噴火口に飛び込もうとしているのと同じことなんだろうな。


 無謀なことしてるって実感、じわじわ湧いてきた。


 まーだからって、やめる気さらさらないけどね。


 橋の上から下を覗きこめば、ここは真っ黒クロスケの繁殖地ですか?ってくらいの、暗黒の世界だ。


 遠近感をまったく感じない、均一な黒一色。完全なる透明度ゼロ。


 これじゃ隣に門川君が立ってても、気がつかないで無視しちゃいそうだ。