……夏だ。

 夏だ。夏だ。夏だ。

 まだ六月だけど、誰がなんと言っても、いまはもう真夏なんだ!


 いまが暑さのピークなんだーーー!


「だから、『これから先はどんどん涼しくなるから大丈夫』って、優しい嘘を誰か耳元でささやいてー!」


 あたしは大声で叫びながら、超高速でうちわをバサバサ扇いで風を巻き起こした。


 でも、ちっとも涼しくなんない。

 汗でジットリ湿った肌に下着が張り付いて、気持ち悪い……。ぐすん。


 ああぁ~、 何をしても、どうしても、どこまでもいってもどんなにしても……


 暑いもんは暑いんだってぇーーのぉぉ!


「エアコンなんて贅沢は言わないから、せめてギブミー扇風機! ……あ、ただし最新型希望」


「最新型ってところが、存分に贅沢です。しかも電力がないのに、どうやって動かすんですか?」


 ここは門川本邸の、あたしの私室。


 壁際に置いてる漆塗りの文机に向かって、凍雨君がテキパキ書類整理している。


 このクソ暑い中でも、ケロッと涼しそうな表情しちゃって、まー見ていて小憎いったら。


 氷血一族の当主である彼は、寒さは当然だけど、実は夏にもめっぽう強いんだよねぇ。


 たぶん自分の体内温度を、術を使って冷気で調節してるんでしょ。


「凍雨君ってズルいー。かわいい顔して卑怯者」


「そんなこと言われても、ボクの特性なんだからしょうがないじゃないですか」


 凍雨君は色白な頬をプクッと膨らませて、唇を尖らせた。


 そんなしぐさと、薄茶色の大きな目と、丸みの残る頬がまだまだ少年らしい美少年キャラ。


 でも鮮やかな紺色の袴姿で背筋を伸ばし、仕事をテキパキこなしている姿は、もう立派な門川君の側近だ。


 立派に成長したもんだ。おねーさんは嬉しいよ。うんうん。