出張から帰って来て、彼の家で過ごすことが多くなった。

離れるタイミングが難しい。

私が家に帰るという意思をくじくのは簡単だ。

洋服の端を握って、何も言わずにじっと見つめるだけでいいのだから。

それで、結局朝まで一緒に過ごすことになる。



窓から差し込んでくる朝の日で目が覚める。

日差しで明るくなった部屋。

二人で眠るには狭いベッドで、彼と重なるように眠ってた。


私は、カーテンを開けようと手を伸ばす。

彼の大きな体に阻まれて身動きができない。

「葉子……起きた?」
もぞもぞ体を動かす私に彼が言う。

「うん」

返事をしてるのに、私の上から退こうとしない。

窓に近づこうと、彼の体から抜け出して上に乗り上げたら、

「まだ、開けなくていい……」
むくっと彼の体が動き出して、腕を伸ばしてきた。
私は、そのまましっかり彼の腕に捕まえられた。


「荻野……」

固い胸に押し付けられて、苦し紛れに言う。

「ほら、また荻野っていう。本当に、やる気がないな。しっかり躾けてやる」

「躾けですって?」

痛いの?それ。

うろたえる。

「すぐに君も荻野になるんだろう?」

「すぐにって……」どのくらいですか?

「君のお母さんに挨拶に行って、すぐに婚姻届け出を出そう」

「そんなにすぐに?」

来週中とか?

散歩がてらに。
買い物のついでとか。

そんなのりで?


「えっと、結婚式はしないの?萩野君」
といって、しまったと思った。


彼は、私を抱いたまま、ぐるんと体を下にひっくり返した。

今度は、体重までかけて押さえつけてくる。

苦しいって。荻野君。


「そりゃあ、したいよな結婚式。でも、君の選んだ萩野君は、結婚式に呼ぶべき親とか親戚はいないよ」

「そうだったね。少し考えようか。焦らなくていいから」

両親がいない。私ったら、不用意なこと言っちゃった。

「ああ」

彼は、戸惑った表情をしている。

親がいるかいないかなんて、そんなこと気にしてないのに。

心からそう思ってるけど、口にして説明するのは難しい。