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花京院社長と私のナイショな関係

7.金木犀の薫る季節に

秋も深まり、空気が澄んできた。
開け放った窓からは、涼やかな風に交じってどこからか金木犀の香りがする。いい匂い。

そういえば篤人さんやおっさんと出会った頃も、金木犀が咲いてた。
……あれからもう1年も経つのか。


「まどか」

ぼんやりしてたら、篤人さんに呼ばれて我に返った。
いかんいかん。大事な日なのに。

篤人さんが、心配そうに私の顔を覗き込む。

「まだ緊張してる?」

「まあね」

今日は篤人さんの実家に挨拶に伺ったのだ。
緊張感で頭が白くなりながらも何とかご両親への挨拶を終え、今はお屋敷内を案内してもらっている。


あれからしばらくして、篤人さんからプロポーズをされた。

会社はまだ落ち着いていなかったし、付き合って日も浅いし、私も正社員に戻してもらえたばかりだったから結婚のことはゆっくり考えようねと言ったら、なぜか篤人さんは入籍だけでもすぐにしたいとごねた。
でも結婚となるとちゃんと筋は通したい。双方の両親に挨拶もしてないし、家族には祝福してもらってから結婚したいと主張した。
一緒に暮らしてるしすぐ籍を入れなくても変わらないよ言ったら「まどかは俺と結婚したくないのか」と不機嫌になって宥めるのが大変だった。
連日のように結婚を急かすから「花京院家の皆さんに黙って結婚なんかしたら反発食らって拗れそうだからヤダ」って言ったら
「正直、俺との結婚は面倒くさいと思ってるんだろう」
とズバリ指摘された。どき。
篤人さんのことは大好きだし愛は溢れてるけど、うん、まあね、由緒正しい大金持ちの家の長男嫁とかメンドウクサイの極み…。

「分かった。じゃあ実力行使でいかせてもらう」

と不穏な宣言をされて、その日から『授かり婚作戦』を展開されて大変なことになっている。現在進行形。


私の両親には先週、挨拶に行った。イケメンの社長を連れて帰ってもちろん大喜び。
さっきお会いした花京院家のご両親には拍子抜けするほど反対されず、むしろ「この子は独身を貫くと諦めてたのにありがとうありがとう!」と物凄く歓迎された。
結婚式は半年後に決まっている。

そして今日は帰りに婚姻届を出しに行く予定。

今日、私は『花京院まどか』になる。


篤人さんの両手にそっと頬を包まれて、琥珀色がかった茶色い瞳がのぞき込んできた。真剣な色。


「嫌だって泣いても絶対に逃がさないから」


けっこう物騒な台詞と本気な表情に、なんでこの超イケメン社長様が私なんかに一生懸命なんだろうと可笑しくなってきた。


「ふふ。逃げないよ。篤人さんを幸せにするっておっさんに約束したし」

「…そうだったな。よろしく頼むよ、奥さん」


唇に短いキスを一つ落とされて、肩を抱かれる。
そろって見上げた視線の先には、花京院家のご先祖様の写真や肖像画。

ヒョウ柄じゃなく着物を着た写真の中のおっさんが、笑ったような気がした。



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