旅館が目に止まった時その瞬間ドキッとした。
私はいつの間にか無我夢中に走っていた。
もう旅館しか目に入ってなかった。

途中転んでしまうがそんな事は気にしないでとにかく旅館へ、という思考が頭の中を支配していた。

旅館の前に来てもしばらくぼーっとしていた。
数秒後その支配から解放され、段々意識がハッキリしてきた時、右手に違和感を覚えた。

右手にはポケットにしまっていたはずのバタフライナイフを握りしめていた。


「ひっ!」


私は怖くなりバタフライナイフをその場に落とした。

何でバタフライナイフを...
もしかして私はあの女の人の事を憎んでる!?
恵実を襲われたから?
表では恵実を助けることを考えていた。
だが裏では...心の中では助けることよりあの女の人をまず殺すことを考えていたってこと!?
そんなことない!!


「私は人を殺すような事は絶対しない!...しないよ...そんなことぉ...」


頭を抱え、その場に座り込んでしまう。
無意識にバタフライナイフを握ってるなんて...
自分自身のこともよく分からなくなってしまい泣きそうになってしまう。