有名なスポーツメーカーのロゴが入ったエナメルバッグを横がけにし、履き慣れたローファーに足を突っ込んだ。

「いってきます」と廊下の先にある扉の向こうにいるお母さんに向けて声を張り上げ、家を出た。瞬間、冷たい風が容赦なく肌を刺す。

今日は一段と冷えるなぁ……。


フロアの一番奥にあるエレベーターに乗り込み、慣れた手つきで『1』のボタンを押す。

途中の階で足止めを食らうことはせず、定員8人のその箱は地上に降り立った。

まぁ、こんなに早い時間だと普段からそんなに混んだりしないんだけど。


ロビーを横切り、オートロック式のエントランスを通り抜けようとした時──


「よ」


陰から、制服姿の康介が姿を現した。

あまりに突然の登場に、固まってしまう。


「相変わらず早えーな」

「なっ……なんでこんな時間に、あんたが……!」


みんなが口を揃えて言うほどの寝坊助さんで、そのために試合に遅刻しかけたことも昔から多々あった康介。

いつもならまだ夢の中のはずじゃ……。