食事が終わる頃に女将さんがサービスと言って出してくれたデザートは小料理屋と言うよりもどこぞの洋食屋で出てくるようなオシャレな苺のムース


「女将さんのムースは絶品」と酒井くん…じゃない大也くんが言うように、口の中で蕩けて広がる苺の香りとほのかな酸味が絶品だった



「俺ね大学入ったばっかの練習試合で杏さんに『走れー諦めるなー』って言われてなかったら、今の俺はないと思ってる。」

デザートを食べ終える頃、大也くんがいつもより少し真剣な表情で話し始める


「あの言葉に俺はウィングだから走らなきゃ…止められるならもっと速くって思えたんだ。」


大也くんの話に5年前のラグビー部の練習試合を思い出す

あのあどけなさの残っていた新入生はすっかり大人の男だ


「あの時のあの言葉でその後の4年間、在学中に必死で基礎体力つけて、筋力アップもして、スピードも持久力もパワーもウィングの中では誰にも負けないって思える程になるまで成長できた。
一つだけ思い通りにいかなかったのは当時の杏さんにはラブラブな彼氏がいて、結局一言も話し掛けられなかったこと。杏さんの名前だけ橘から聞き出すことはできたけど…」


「ん?ラブラブな彼氏がいたのは事実だけど、彼は年上だったし一緒に大学を歩いたことなんかないけど…」

ふと疑問を口にする

「え?いつも一緒にいた男の人は?」


大也くんの言葉に大学時代を振り返る…

当時から私はカメラばっかりだったから正直友達は少ない方だったと思う。

大学4年間、構内では私がカメラ小僧やってる時以外は大学入学前のオリエンテーションでなぜかウマの合った男の子と一緒に行動することが多かった。でも絶対に恋愛感情というか男を感じることはなかった。


「あーあれは友達!それ以上も以下もない!向こうも同じことを言う、断言する!」


「ふふっ杏さんがそこまで断言するなら間違いないね。まぁ、そんなわけで一言も声をかけられないまま杏さんが卒業しちゃって、ヤケになってて大学卒業するまでは来る者拒まず去るものは追わずなこと繰り返してたけど、どれも本物の恋愛なんかじゃなかったって気付いたのは高梨グループに入ってすぐくらいに本社のラウンジで社長と杏さんが話してるのを見つけた時だった。」



私の暗黒時代真っ只中の時ですね…