「聞いたわよ~真壁さん。あのKIZUKIの岡田さんと付き合っているんですって?」

休み明けの月曜日。
お昼休み、工場の食堂で。


パートのおばちゃんズのひとり、杉浦(すぎうら)さんに唐突に話しかけられ、私は思わずカップラーメンの汁を噴き出しそうになった。
なんとか堪えたものの、今度は器官に入ってしまい咽る。


さすがおばちゃんズである。情報網は侮れない。
もうここまで耳に入ってしまったのか。


「つ、付き合ってないですよ、それは嘘です」

「ええ?でも真壁さんが岡田さんの車に乗ってたのを見た!って聞いたけど!」

「……誰ですか、それを見たって言ってた人は」

誰に見られていたのか。
で、誰がばらしたのか。

さすが平均年齢が高いこの工場。
ほとんどの人が結婚し、子供もある程度大きいから、みな落ち着いている。
だからそういった浮ついた話など、この工場にはあまりない。

そんな中で一番若い私が男の人と、しかもここに来るメーカーの社員さんと一緒にいる所を見られたら、そりゃあ噂にもなるだろう。

なんだかんだでそういうゴシップが大好きなんだ、ここの人達は。

……だから嫌だったんだ。

すぐに噂が広まるから。

ましてやこのおばちゃんズは、噂をさらに膨らまして広げやがる。
お陰でいつの間にか、付き合っている設定になっているじゃないか。


ああ、面倒臭い。


「東雲(しののめ)課長だったかしらねぇ、ニヤニヤしながらプレスの人達と大きな声で話しているのが耳に入っちゃって、気になって聞いたのよ。もう、真壁さんったらやるわねぇ。岡田さんなら将来安泰じゃない」

「いやだから付き合ってないですって。車に乗ってたのも特に深い意味は……」

「あら、じゃあ乗ったのは本当なのね!ああもう、楽しみねえ!結婚式は二次会でいいから呼んでね!」

「だから、違うって……」

「ああっ!若いっていいわねぇ、吉田(よしだ)さん!私たちもそんな淡い時代があったわね~!」

「そうね、杉浦さん!今じゃメタボオヤジだけど、二十年前は夫も爽やかな好青年だったわぁ~」

ダメだ。
思い出話に花咲かせてしまった。

……どうしておばちゃんズはそう話が飛躍するんだ。
全く人の話を聞いていないじゃないか。

くそう、そして噂の根源は課長か!
なにか言ってやらねば!