文化祭2日目ーー。


日々準備に追われ、ここ数日はまさに怒涛の勢いだった。


あたしたちのカフェは、ある人のおかげで大繁盛。


昨日もすごく忙しかったけど、一般公開日の今日はさらに忙しくなりそうな予感。


朝から天気は見事な秋晴れで、お祭りの雰囲気が学校中に漂っている。


開始と同時に、どこで噂を聞きつけたのかたくさんの女の子が押し寄せた。


「やばーい!矢沢君の王子様姿、かなり萌えるんだけど!」


「胸に赤いバラまで刺しちゃって、まさに王子様だよねー!」


「惚れちゃうかもっ!」


「後夜祭で告白しちゃおうかなぁ」


うっ。


昨日もだったけど、矢沢君のモテっぷりはやっぱりすごい。


中世のヨーロッパ風の貴族のような衣装を身に纏った矢沢君は、腰に剣をさしてまさに本物の王子様スタイル。


普段は無愛想でクールで近寄り難い雰囲気を放ってるけど、その衣装のおかげで中和されている。


うん、カッコいい。


一般公開日のせいか他校の生徒や中学生もたくさん来ていて、みんなコソコソ矢沢君を見てる。


「うぜー」


矢沢君はそんな女の子たちを冷ややかに見ながら、あたしだけに聞こえる声でボソッとつぶやいた。


「で、でもほら、すごく似合ってるよ」


「はぁ?これのどこがだよ。胸にバラとか、マジで終わってるだろ。キャラじゃねーし」


「そんなことないよっ!ホントの王子様みたいでカッコいいもん!」


「え……?」


驚いたように目を見開く矢沢君。


わー、あたし何言ってんの!


でもでも、ホントのことだし。


「あ、えっと……ウソじゃ、ないよ……!ホントにカッコいいから。だから、そのっ」


って、ほんとになに言ってるのあたし。


これじゃ変に思われちゃう。


それに真っ赤な顔を見られたくない。


恥ずかしいよ。


「マジ、か……サンキュ」


照れたようにボソッとつぶやく矢沢君。


「あ、あたし、仕事に戻るね」


赤くなった顔を隠すように背を向け、そばを離れた。


そのままバックヤードに引っ込み、しばしの間気持ちを落ち着かせる。


あたし……なにやってるんだろう。


矢沢君の王子様姿に、こんなにもドキドキしてるなんて。


カッコいいとか、本人に面と向かって言っちゃった。


ばか……。


はぁ。


「矢沢君!一緒に写メ撮ってもらえませんか?」


「ムリ」


「い、1枚だけでいいので……!」


「ダルい」


「そ、そんな……ひどい」


「俺、写真とか嫌いだから」


そんなやり取りが遠くから聞こえて来た。