「彼はどうですか?」



担当作家の自宅兼作業場にて、週刊ホイストの次期編集長と名高い、県猶助(アガタ ナオスケ)は問う。



「ええ、いいですよ。毎日小さな目標を自ら設定して、努力を重ねていますから。」



看板漫画家である予師稿娶麓(ヨシワラ シュロク)は、柔らかな笑みで答えた。


彼とは数ヶ月前にアシスタントについた、丑辰堪壇(ウシトキ カンタ)のことである。



「どんな困難も耐え抜き、実現したいという気持ちが溢れてもいるしね。」


「迷わずに生けるなら心砕けてもいい。新進気鋭と言われるまで、ですか?」



「ああ。夢を見たいが為に、夢の無い現実を選び身を置いているのだからね。」



夢を売る仕事ととは夢の無い仕事の積み重ねである、娶麓の長年の実体験だ。



「そういえば、彼女も熱心ですね。営業の方とも話せるのは嬉しい限りですがね。」



堪壇と談笑する彼女、夢鼓雉歳(ムツヅミ チトセ)は猶助と同じ出版社疋友(ソユウ)に属する営業。


堪壇とは営業先で知り合ったが独自のルートも持ち、作家のところにも顔を出す風変わりな営業として作家内では有名だ。



「先生方の寛大な心に感謝しています。」