想いを一つ消し去ろうとするたびに心は白く汚れてゆき 私を苦しめる。
ああ、この想いはここにあってはいけないものなんだ。
常々、そう思う。


ああ、この想いがここにあるから私は幸せになれないまま 見せかけの幸せだけを掴んでいるんだ。
いっそのこと私以外の人もこの想いで不幸にしてしまえたらいいのに。
それならばいくらか私は幸せになれるというのに。



君の幸せを願う度、私は不幸になるよ。



ああ、まただ。
君が大切だなんて言いながら 君が悲しむのを願う私はもう誰にも救えない。
見たくはないのに、何故願ってしまうのだろう。
やはり、私は君が悲しむ顔がみたいのかな。


もう一度、無人の教室で同じ場所に 歪な宝物の分身を置く。
そして決心する。


私は愚かだから。
私は他の人を不幸にしてしまうから。

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私の大切な人へ。
私は最期にこの教室に不幸の種を撒いていくよ。


私の歪な宝物そのものを。

私が数年間 大切にしてきた歪な恋心を。

次にこの教室に来る君が 不幸になるよう願って。



だって、君の不幸は私の最大の幸せだから。

最期まで私は不幸だったよ。今までありがとう。

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黒板を白い恋心で汚してゆく。
何度撫ぜても消えぬように。消せないように。


黒板いっぱいに書かれた私の恋心。
今朝描かれた私の恋心を 塗りつぶす。
跡が見えなくなるまで。跡形も無く 消え去ってくれるよう願って。


黒板いっぱいの恋心を力の限り黒板消しで撫ぜる。
チョークと共に 私の恋心が消えてくれるように。
黒板消しが私の恋心も消し去ってくれるように。
これでいいんだ。


黒板消しが勢いよくチョークを消す音。
撫でるなんて音じゃない。

これは 私の恋心の断末魔だ。


急に 足元に散らばっていた恋心の死骸が舞い上がった。
空いた窓から 風が吹いている。
それは 私にしがみついていた恋心まで吹き飛ばしてくれた。
風向きが変わり 窓の外へと向かっていった。
私の恋心の死骸が 窓から見える桜を白く汚した。


その時の光景はとても美しいもので、
例えるならば 白い羽が舞散って 空の果てに吸い込まれて消える様な。

そんな幻想的な光景とは程遠いような物が、これ程までに美しく見えるのかと 疑問になるが、現に私の目の前で実際に起きていることなのだから そうなのだろう。


いつしか風は止み、教室には私だけが残った。
恋心の残骸は もうどこにもなかった。
私の胸の中以外には。


あんなに強い風でも吹き飛ばせない程に 私の恋心は重くなってしまった。
この想いが君にばれてしまうのなんてもう時間の問題ということなのだろう。
なんてことだろう。