ケータイ小説 野いちご

真っ白に汚した あの日の気持ち

私の 私だけの 宝物

朝、誰もいない教室。
見慣れたはずの場所なのに 始めてきたような気がした。
私しかいない教室。


なんとなく。
誰もいないこの瞬間、この場所で。
私の秘密を 出してみたい。
口に 声に出してみたい。
そう思った。


言ってみたい。いや、言うんだ。


息が 詰まる。
喉が 唇が 痛いほど 乾く。
心臓が 暴れ出す。


何故。
たった今 口に出すと決めたのは私なのに。
何故 私の体は 脳は 頭はこんなにも嫌がっているんだ。


私の 秘密。隠していること。
誰にも知られたことの無い
誰にも知らせたことの無い
私しか知らない 私の 私だけのこの想い。

いわば、私の宝物。


ふと、口に出した瞬間、誰かに聞かれるかもしれない。そんな考えが頭の隅を駆け抜けた。
聞かれる?私の 秘密を?私だけの この想いを?
ずっとずっと前から 大事に隠してきたこの想いを
誰かに 聞かれるの?
それは 私の宝物を人に盗られるようなことだ。


そんなこと あってはならない。
だってこれは この想いは 私だけのものなのだから。


自分の想いを他者に理解できるよう表現するという行為は何よりも気持ちの良いものだ。
私は数回味わったことがあるという程度でしかないが、一度知ってしまったならばもう誰にも何者にも止めようのないものだ。
私は他者の 視覚から得る情報によって理解できるよう 私だけの宝物の分身を そこに置いてきた。


その後にはまさに「天にも昇るよう」な爽快感。
私はしばらく それを味わった。


ずっと味わっていたい。


そんな私の気持ちとは裏腹に あるものによって私の意識は元の現実へと即座に引きずりこまれた。


私の意識を引きずり込んだそれは まだ煩く鳴っていた。


学校特有のあの 頭の中に直接響いて脳を揺さぶる音。
始業前の鐘は何故こうも大きな音なのだろう。


黒板に記された私の宝物。
黒板の隅の方 普段なら誰も気に止めないような所。


そろそろクラスメイト達が来る頃だろう。
そう思いながら黒板消しで私の宝物をそっと撫ぜる。


微かに残った チョーク跡。
それは、私の宝物が確かにそこにあったという確かな証明なのだ。


私の 歪な宝物。


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