あ、れ?
ここどこ? 確か私、図書室にいたような…

周りを見渡すと初めて見るのにどこか日本の懐かしさを感じる古風な街並み。

アスファルトの道路や、空を隠してしまうほど高いビルはなく、土の道に低い木造の家。

あ、そっか。タイムスリップしたんだ。

なんでこんなに冷静でいられるかというと、私、花泉桜は昔から突然タイムスリップしてしまうという体質だったからだ。

ある時は明治、またある時は室町へタイムスリップした。

今回でこの現象は12回目。そろそろ慣れてしまった。

タイムスリップするときの条件はまだわからないが、戻るときの条件は発見。
タイムスリップ3回目で確信した。

一回目は恐らく弥生。何故自分がここにいるのかわからず、泣きながら森を彷徨っていた。
そして疲れ果て、とてつもなくお腹が空いていたのを最後に意識がなくなり現代に戻っていた。

2回目はいつかはわからない。これといった特徴のある場所ではなかったから。薄汚い格好をした男に追いかけられ、足を滑らせて川に落ちた。

ら、現代に戻っていた。

三回目は安土桃山。私は親切な人に助けてもらったのだが、飢饉によって口減らしのため、刃物を向けられた。 目の前に迫る刃先に目をつぶった時、現代に戻っていた。

そして確信した。

死にそうになるといつの間にかタイムスリップした瞬間に戻るのだ。

そして不思議なことに、現代に戻るのはタイムスリップした瞬間。

例えタイムスリップした先で一週間過ごしたとしても現代では一秒も動いていない。

後、タイムスリップしている間はなぜか容姿が変わらない。

最高で明治に5年いたことがあるが、全然老けなかった。

だから私現代では18だけど実際は25年くらい生きてる気がする…笑

とまぁ、こんな体質のおかげで歴史に興味を持つようになり、歴史のテストでは学年一位。

今は新撰組が好きで、ドラマや小説も欠かさず見ている。

ていうかこの街並み。もしかしたら新撰組の時代だったりして

なんちゃって

そんな都合よく行かないよね〜

とりあえずブラブラ街を歩いていると、誰かと肩がぶつかった。

「すみません」

私はいち早く謝ったが、ぶつかった相手が悪かった。

薄汚い格好の、言うなれば浪士。

やっぱりここ新撰組時代じゃない?!

なんてこと考えてる暇なんてなく、男が突っかかってきた。

「おいテメェ誰にぶつかったと思ってんだ」

なんだこの頭の悪い文句は

「すみません。貴方とは初対面なのでどなたかは存じません。」

正直に答える。

あなただって私のこと知らねえだろうが。

「ああ?俺を知らないだと?そりゃそうだ!俺は別に名のある武士じゃねえからなぁ!」

…は? なんだこの人。喧嘩売るんじゃないの?

自分で言っちゃうあたり意外と面白い人なのね。

「あははは!!お兄さん。あんなこと言うから有名な人なのかと思ったじゃん。そしたら自分で名もないって…面白すぎでしょ」

笑いが止まらない。
男も男でがははと笑っている。

これ、私斬られるパターンじゃないんだな…

刀を差しているからこの人は私を斬るんだと思っていた。

まぁだとしても痛みを感じる前に現代に戻るだろうし、避ける自信もあったから怖くはなかったけど。

タイムスリップでは一度過ごした時間には二度とタイムスリップできない。

なのに死にそうになって現代に戻ってしまうのはもったいないから、ある体術を身につけた。

「お前も面白い奴だな。見たことねえ格好してるし。まぁぶつかったのはお前が悪いが、今回は許してやる。」

男のこの一言で私の笑顔が強張る。

はぁ?意味わかんない。私が悪いの?

「ちょっと。それは聞き捨てならないんだけど。ぶつかったのはどっちにも非があるでしょ。フィフティーフィフティーよ」

若干喧嘩腰で私が対抗する。

すると男も露骨に表情を崩し、刀に手をかける。

「ああ?フィフティーフィフティーてなんだ? 許してやるっつってんだから大人しくしてればいいものを」

そこまで言うと、抜刀し、斬りかかってきた。

「うおっ」

すかさず避けたはいいものの女子としてあるまじき声が出てしまったよ

「なっ…俺のを避けるなんて…」

男はわなわなと震え、私に向かって刀を振り回し始めた。

「ちょっ!やめてよ私刀も持ってないか弱い女の子なんだよ?!」

攻撃は絶え間なく間続くものの、太刀筋がめちゃめちゃなので避けられる。

「このぉおおお!!!」

男は叫びながら攻撃の手を休めない。

「誰か助けてクダサーーイ!」

周りを見渡しながら避けていると、浅葱色の羽織を着た人物が近づいてきた。

え?浅葱色?!

てことは…

し、新撰組ぃい!!!

やった!ここは新撰組の時代だったんだ!!

そしてまさか会えるなんて!!

ラッキーガール桜とは私のこと!

浅葱色が男を捕縛しやすいように私は思いっきり後ろへ飛び、男との距離を作る。

そこへ浅葱色が、入って男の剣を止めた

「テメェ長州の浪士だな?」

喋った!浅葱色が喋った!誰?!この人誰?!

私は体を休めつつ、生で見る生きた新撰組の誰かをキラキラと見つめる。

すると浅葱色は一瞬にして男を斬った。

男は呻き声を上げ倒れこむ。

え? 新撰組は捕縛が主じゃないの?

殺しちゃうんだ…

初めて見る殺人現場に足が震える。

すると浅葱色は男を縛りだした。

「安心しろ峰打だ」

私を一瞥し、冷たく言い放つ。

よ、よかった…殺したんじゃないんだ…

てか!この人私が考えてたことわかったの?!すごい!

それにしても綺麗な顔をしている。

切れ長の二重に鋭い眼つき。

眉間にはシワがよりすぎているが

て、こんなこと考えてる場合じゃない!

私は男を肩に担いだ浅葱色に近づいて

「ありがとうございました!」

ぺこりと頭を下げる。