「雪弥(ゆきや)~」

と、甘い声で寄ってくる女どもをすり抜けながら俺は体育館裏へ急ぐ。世話好きでもないのに、いつからこんな役回りになってしまったのか自分でも分からない。

「泣いてんじゃねーよ。ブス」

ヒクヒクと声を漏らして泣いていたのは幼なじみの兎田川 月子(うだがわ つきこ)。

兎に月だから俺は昔から〝うさこ゛と呼んでいる。

「フラれたんだって?アイツに」

2学年上の葉山をアイツ呼ばわりするのはただ単に俺が嫌いなだけ。あの胡散臭い笑顔を見るだけで俺はいつもイラついてた。

「誰から聞いたの?」

うさこは目を真っ赤にして俺を睨んだ。
本当にウサギみたいなヤツ。

「もう噂になってる」

俺がそう言うと恥ずかしいのか悲しいのか分からないけど、また声を出して泣き出した。