「神那先生、これ母が送ってくれた梨です。

良かったらどうぞ」


お昼前のステーションで袋に入った梨を差し出すフェロー。


「要らない」


「そんなこと言わないでくださいよ。

美味しいですよ?」


「要らない、2度言わせないで」


「梨嫌いなんですか?」


「別に」


嫌いではないが好きでもない。


今日は神崎が講演会に行っている為、間に入る人間が居ない。


「母の送ってくれる梨は本当に美味しいのに残念です」


「興味ない」


「神那先生の親は仕送りとかしてくれるですか?

もしかして一緒に住んでたりします?」


何気なく言ったんだろうけど。


「私に家族なんて居ないから」


私の古傷をえぐっただけ。


「またまたぁ、そんなこと言ったら家族が泣きますよ?」


「両親共死んだ、だからもうこの世に家族は居ない」


皆が皆家族が居てそれも生きているとは限らない。


「え?あの、死んだって…」


「君に話す必要ある?そんなこと」


それはあまりにも私の内情に深く関わることだ。


例え親密な仲であったとしても言う必要はないしする気もない。