出稼ぎを思い立ってからというものの、彼の仕事量が格段に増えた気がした。
気のせいかとも思ったけれど、そんなことはなく、彼は見たことのない薬を飲んでいた。
成分的にはイケナイお薬とかではなさそうだけれど、身体が心配でつい声をかけた。




「ねぇ六花、少し休んだら?」
「うるっせぇな黙ってろよ」
「そんなんだから身体壊すのよ。薬漬けになっても知らないわよ」




本当はもっと優しく彼のその身体を労わりたかった。
労いの言葉をかけて、いつか見た母のように温かく彼に寄り添って。
彼の薬の代金くらいはあたしが稼いで、さ。




勿論彼がそんなことを赦す筈もないから、こうして地団駄を踏むしか道はないわけで、日に日に疲労を溜め込んでいく彼を見て見ぬふりしか出来ないあたし自身が歯痒くて仕方がない。




気分転換にかけたラジオでさえ、好きな相手のために何も出来ない人間は酷いと、まるで今のあたしを酷評するようなネタを辺りにばら撒いている。
世間的に見ても、何も出来ないあたしはやっぱりありえないんだ……。




「雑誌に載ってたかふぇ、お仕事させてくれないかなぁ」




六花のお昼ご飯のお弁当を作りながらふと呟いた自分にため息。
森を出ることすら出来ないあたしがお仕事なんて出来るわけないのに。





それでもやっぱり六花の役に立ちたくて、小さな抵抗を含めて人参をハートマークにくり抜いてきゃら弁っていうのを作ってみた。
お仕事仲間に笑われれば良いのよ、あんな馬鹿男。




「馬鹿のくせに、なんで振り回すのかなー。あ、振り回すしか能がないのか」




聞かれたら怒鳴られるであろう罵倒をひとつ。
出来上がったきゃら弁を包んで机に置いておいてあげる。
取り敢えず、出稼ぎのことは忘れてお洗濯しないと!