城を出てから1週間、お妃様主催のダンスパーティーの開催通知が届いた。
林檎は出席しないと書かれていたが、林檎は踊りが好きな筈だ。
ダンスパーティーに出ないなんて珍しい。




便りを机に置いた時、一緒に入っていたのだろう小さな紙が床に落ちた。
お妃様の万年筆の筆跡とは違う、小さな丸文字。
この文字は見覚えがある。
林檎の、文字だ。




〝貴方が参加しないのなら、あたしもダンスパーティーには出ないわ〟



相変わらずお姫様らしからぬ行動を見せる林檎に笑みが零れる。
そういや、今回のダンスパーティーはお妃様と警備隊長の結婚披露宴を兼ねているんだとか。
あの警備隊長、やる時はやるな。





「オニイサンは来てくれますよね?」
「守衛の娘か」
「お兄ちゃんの結婚披露宴ですよ?来てくれますよね?」




散々助けてあげましたよね、と黒い笑みが俺を射抜く。
怖いんだよな、林檎が別の男と踊っているのを見るのが。
あのお妃様なら出自を気にしないとは思うが、あまり知らない俺を許してくれるとは思えない。





怖ぇんだよ、ガキみたいだが。
林檎が遠くへ行ってしまうのが、怖い。
林檎が俺には手の届かないお姫様だと改めて知るのが怖いのだ。