一週間だけ、東京にいる親戚の家に、
一人で旅行に行ってみたいと、言っていた隼大は、
卒業式を終えると、翌日から船に乗って東京に旅立った。

私は夜勤明けにそれを送った後、
家で仮眠を取って、
久しぶりに一人きりの家で夕方目を覚ます。

今日は仕事はないから、
一人きりで食事を作るのも面倒で、
気づけば、『穂のか』の暖簾をぐぐっていた。

珍しくお客さんが少なくて、
カウンターにいるのは、宮坂先生だけで、

「よお、隼大はどうした?」
そう尋ねてくるから、
旅行中だという事を告げると、
一人旅行か、それはいいな、と言って彼は笑う。

横に座って、私もビールを頼んで、
お通しと一緒に、軽くお酒を飲み始める。

「……お前もだいぶ落ち着いたか?」
そう尋ねる瞳は穏やかで優しい表情だ。
何について尋ねているか分かった私は、
小さく笑みを浮かべる。

「宮坂先生がしょうもないことで、
しょちゅうからかうから、おかげで大分マシになりましたよ」
そんな憎まれ口を言うと、
ふと、彼が眉をしかめる。

そんな言葉一つで機嫌悪くなるような人じゃないから、
思わずびっくりして、彼の顔を真正面から見つめてしまう。