やっぱりさっきの恐怖が抜けきらなくて、
そっと彼の指先に自らのそれを合わせる。

当然のように反対側の手で、私の大きな荷物を持って、
握った手をゆっくりと引いて、彼は私に合わせ、
ゆっくりと、歩き始める。

周りはすでに暗くなっているから、
人の視線は気にならない。

それなのに、徐々に鼓動が高くなっていって、
頬が熱くなってくる。

とくん。とくん。となる鼓動を抱きかかえたまま、
私は顔を上げられずに、そのまま歩き続けた。

「……隼大は、柔道の筋がいいぞ」
緊張している私に気づいているのか、
彼はたわいもない話を私にしてくる。

「……そうなんですか……」
「それにな、算数も、だいぶ鍛えてやった」
そう言うと、何かを思い出したように、
彼の肩が震えて始めた。

「くくっ。あいつ、本気でお前が怖いんだな。
佳代に報告するぞって言ったら、必死になりやがる」

名前を呼び捨てにされて、
胸がぎゅっと締め付けられるような気がした。
それは決して嫌な感覚じゃなくて。

(私の名前なんて、皆呼び捨てにしているんだから、
全然普通のことだよね……)

そんな風に自分で言い訳していても、
やっぱり、ドキドキする鼓動は止まらない。

「通知表見たら、褒めてやれ。
だいぶ成績も上がったぞ……」

そう屈託なく笑う彼に対して、
私、ちょっと疲れているのかも言い聞かせて、
彼の手を離せばいいのに、握ったままで。

そのまま熱っぽい顔を俯かせて、家の近所まで戻ってくる。