嵐は、前触れなく突然やって来て、何事もなかったかのように過ぎ去った。



ウェルス国軍が侵入して来た、あの日。



たった一夜の出来事が残した傷跡は、小さくはなかった。


幸いなのは、犠牲者が誰も出なかったこと。


軽傷者や重傷者はいても、死者だけは出なかった。



そのぶん、城が受けたダメージは大きく、痛々しかった。


庭は荒らされ、窓ガラスは砕け散り、壁の至る所は崩壊。



それでも、カルム城の臣下たちは、誰一人としてこの城を見捨てたりはしなかった。


城の修復を、寝る間も惜しみ、誰もが積極的に行動した。



早いもので、あの日から一ヶ月が経った。


少しずつだけど、城は元の形状を取り戻しつつある。



あたしは城の修復を手伝いたかったけど、やらなきゃならないことが、他にもたくさんあった。


何よりも先に、国民に話さなければならなかった。


けど、国民は誰もあたしを責めたりはせず、むしろ城の修復を手伝う、とまで言ってくれた。



崩れかけていたあたしの心は、一旦そこで救われた。