普段は勉強するためだけの小さな箱も、放課後になれば途端に顔を変える。


まるで昼間の喧騒がうそみたいに哀愁を漂わせ、言いしれない切なさやトキメキ、そしてときには孤独に襲われ人恋しくなる……。


そんな放課後の、ひとりの教室は嫌いじゃない。



黒板に向かって整然と並ぶ机と椅子たち。

たったそれだけの様(サマ)に、どうしてか心が落ち着いて。

彼の席にそっと触れて、胸をときめかせる自分が好きだった。


学校にいて一番大好きな時間。



窓から入る独り占めできる風には、季節ごとにそれぞれ匂いがあることを知った。


春、夏、秋、冬。

ひと通りの季節の放課後をここでひとりですごし、窓から見える桜の木の移り変わりを見てきた。


そこで彼氏を待つ。

なんて贅沢な時間だったんだろう。


無意味に過ごしてきたつもりはないけど、もっと大切にしておけばよかった……なんて、今更言っても遅いか。