俺が藤堂さんの過去を聞き終えたとき、開いた口が塞がらないほどの衝撃を受けた。

彼女は何事にも辛い顔をせず、いつも笑顔をふりまいていた。
でもそれには理由があっただなんて。

俺はいくら探しても、彼女にかける言葉が見つからなかった。

「いつも笑顔でいようって決めたんだけど、どうしても彼を思い出して泣いてしまうときってあるのよね」

彼のことを思い出してか、彼女の左目から頬に涙が一筋伝った。

「ごめんね三笠くん。こんな話聞かせちゃって」

手で涙を拭うが、すぐにまた涙が溢れだし零れてしまう。
俺はその姿をみて、胸がきゅっと締められたように苦しくなる。
苦しい反面、彼女を愛しくも感じた。

いつも笑っている彼女が目の前で泣いている。
笑顔の裏で本当は誰よりも辛い過去を抱えていて、一人になるとその重さに耐えきれなくなり涙を流していたのだろうか。

彼女がまた左目から流れる涙を拭おうとしたとき、俺は無意識に彼女を抱き寄せていた。

「みかさ…くん…?」

俺は彼女よりも年下で、人生経験も少ない。
そんな俺にできることはあるのだろうか。

「…一人で抱えこまないでくださいね」

手探りの言葉で、俺は次の言葉を探していた。
抱き締めた彼女の感触は柔らかく、華奢な身体に良い匂いが俺の胸を掻き立てる。
俺の顔はきっと、一目でわかるほど真っ赤で火照っているだろう。

「亘さんも言ってたじゃないですか。"時には誰かに頼れ。何でも一人でやろうとするな"って…」

これはさっき店の前で、亘さんが彼女へ向けて言った言葉だった。
本当にその通りだ。
いまならそう思う。